東北の「食」生産の今

第001回

伊豆沼農産(宮城県登米市)

伊藤秀雄氏

「農村」を「産業」にする志と高い戦略性で成長し続ける、農業法人のパイオニア

「伊藤秀雄氏」_1
伊藤秀雄(いとう・ひでお) 農業生産法人 有限会社伊豆沼農産 代表取締役 http://www.izunuma.co.jp/

仙台から北へ70キロ。原生の自然に恵まれた美しい場所であり、渡り鳥の渡来地としても知られる登米市迫町新田地区を訪れた。
「お待たせしました!」
一瞬で私たち取材陣の緊張を解いてれた明るい声と笑顔の主は、伊豆沼農産の伊藤秀雄社長(58)だ。28年前この地に創業し、現在は養豚、水稲、ブルーベリーの栽培の他、直売所やレストランの経営、通信販売、イベント運営、こども・企業向けの体験教室と様々な事業を地域の企業や住民と連携し幅広く展開している。地域と全国・世界をつなぐ『農村産業』を理念に掲げる同社の取り組みを伊藤社長に聞いた。

“食べ物”を作っている感じがしないという違和感

—— 創業のきっかけは?

大学合格を目指していた18歳の時に父が他界しました。私は長男でしたし、大学進学をやめて家業である農業を継いだんです。4.2hの水田と母豚10頭からのスタートでした。農の知識も経験もゼロですから、最初は周りの方にかなりサポートしてもらいました。翌年には生産組合を立ち上げ、規模拡大を目指したのですが、すぐに大型化の企業経営の限界にぶつかりました。同時に「本当にこれで良いのだろうか」と疑問を持ち始めました。というのも、当時私たちがしていた農業は、農作物や畜産物を作ってそれらを農協におさめることでした。
しかしお客様の顔が見えないので、食卓にならぶ〝食べ物〟を作っている自覚が生まれない。当時、「生産者」と「消費者」の距離はかなりありましたから。その違和感に気づき、「私たちの仕事は人の口に運ばれる〝食べ物〟を作ることだ」と再認識し、弊社の理念である「農業を食業に変える」に基づいた付加価値型一貫経営に舵をきり直しました。孔子の言葉に「三十にして立つ」という言葉がありますが、私もこの言葉に影響を受け、三十歳で伊豆沼農産を立ち上げました。

社会人経験も、農の経験もない

—— 当時はかなり、異端児だったのでは?

そうですね。「養豚農家が肉屋をすると失敗する」というジンクスがある中で、豚肉の加工・販売だけでなく、当時は前例がなかったレストランを始めたわけですから、「できるわけない」と周りから何度も言われました。今思うと社会人経験も農の経験もないことが、固定概念にとらわれずに様々な事に挑戦できて逆に良かったのかもしれませんね。経営拡大して、自家産だけでは足りなくなった時、地域の生産者さんや異業種の方と連携を始めましたが、当時はこの発想もかなり珍しかったんです。徐々に、仕入先や取引先が地域内に増えて地域内連携が根付いて行った。これが今、当社が目指している『農村産業』の前身となっています。

高齢化50%を超える「農村」の「産業化」とは

—— 『農村産業』とは?

「食業」を理念に掲げている私たちは、お客様に安心安全かつ美味しい食を安定し提供し続けなくてはいけません。おかげさまでお客様は全国各地や海外にまでいらっしゃいますから、私たちだけの力では限界があります。しかし、地域資源全体で見たら可能性は無限に広がります。ここでいう地域資源は食と農や豊かな自然だけではありません。この地域は高齢化率50%を超えていますが、その高齢者のみなさんの経験や知恵こそ、都会と地方をつなぐ鍵です。
当社の体験ファームでは、知識がある地元の方が、都会からきたお客様の先生になってくれています。農村の「場」で、農村で生産した「もの」と、農村で暮らす人たちの「こころ」と共に提供する。これが私たちの理想とする『農村の産業化』です。

あえて横綱に挑むのが、戦略

—— 全国から伊豆沼に人を呼ぶには?

私が常に言っているのは「全国へ発信し、地域へ戻す」ということです。例えば当社の看板商品の一つである「伊達の純粋赤豚」を全国で販売する為に選んだ最初の販売場所は鹿児島でした。ご存知の通り、「黒豚といえば鹿児島」。だからこそ鹿児島の人に『赤豚はおいしい』とお墨付きをもらえれば早いと思ったんです。豚肉界の横綱に幕下が挑むようなものです(笑)。
これをある全国紙で『戊辰戦争以来、初めて東から西を攻めた』と報道され、それを皮切りに多くのメディアで取り上げられ、赤豚のブランドを全国に認知してもらうことができました。香港での販売も論理的には同じです。食にうるさい香港の富裕層から高級豚肉として高い評価を受けているという情報が、全国各地に伝わり、最終的に仙台などの地方都市部に波及します。そうやって伊豆沼農産に興味を持っていただき、この地に訪れてくださったり、商品を購入いただくという循環が生まれます。
『ランメシ!東北風土(Tohoku FOOD)』もそうですよね。私たちが作った甘酒『初恋さくら』が全国のマラソン大会や、フランスのメドックマラソンで、補給食として提供されるからこそ、毎年春にたくさんの方が登米市に戻って来てくれる。私たちにとってはとてもありがたく、嬉しい限りです。

—— 最後に今後について一言お願いします

『農村産業』を通して、まだ社会が気づいていない新しい価値を提供し、イノベーションをおこしたいです。その為にもこれからも多くの事に挑戦していきます!

—— 本日は貴重なお話をありがとうございました

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第003回 ももがある(福島県福島市)古関弘子氏

東北グルメ勢揃いのエイドステーションと
同時開催「東北日本酒フェスティバル」で大好評!

2017.3.18 Sat. - 2017.3.20 Mon.

メイン会場
宮城県登米市長沼ボート場
(長沼フートピア公園)

ランメシ!東北風土(Tohoku FOOD)は、
復興庁「新しい東北情報発信事業」の採択事業です。

復興庁「新しい東北」情報発信事業とは

復興庁では、被災三県を含む東北地方の各地域において、各々の課題を解決し、自律的で持続的な地域社会を目指す取組を「新しい東北」と呼んでいます。これら、東北を牽引する先導的な取組を行っている民間等と共同(コラボ)して、「新しい東北」の魅力や、風化の防止や風評の被害の払拭に向け、民間等のネットワークを活用し、被災地や復興に関心が高い人だけでなく、広く全国に発信することにより広範かつ継続的な復興の輪の拡大を図ることを目的とした事業です。 平成28年度は酒・食・技・町・旅・人をテーマに6社の事業が選出されました。

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社団法人 東北風土マラソン&フェスバルまで。

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